| エピローグ いったいどのくらい歩いただろう・・・・
肩先に積もった雪を払いながら、僕はアパートの鉄階段をのぼった。
冷え切った真鍮色の鍵をだし、鍵穴に差し込む。
コトッと音がして錠が開く。僕はいったい何度この動作を繰り返し、この部屋に入っただろう。
冷たい部屋に入り、僕はまずストーブに火をいれる。
古いラジオのダイアルをまわし、さざ波のような音の向こうから聞こえてくる声を探す。
「クリスマスイブ・・あなたは、一番大事な人と一緒に過ごしていますか?」
FM局のナビゲーターが甘い声で語りかける。
僕は、ストーブの上に白い琺瑯ポットを置きながら、本棚の上の水色の箱を見た。
昨日まで部屋中を覆っていた香りが、今は少しも感じられない。
灯油が切れ、ストーブの灯がすっと消えた。灯油切れのライトだけが暗い部屋で光っている。
徐々に寒さがもどってきて、僕は椅子にかけてあった分厚いセーターを着込んだ。
幾何学模様の細かな編み目は、必死で隠そうとしているナナの神経質で細やかな性格を物語っている
同じ柄のマフラーを編みながら、ナナは何を考えていたんだろう。
「北欧の漁師の奥さんはね、自分だけの模様を作ってそれをセーターに編み込むのよ。
荒海に出ていくご主人にそれを着せるの。何があっても、自分の所に戻ってきてくれると信じてね・・・・」
ナナは、この言葉をまだ 覚えているだろうか。
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