「一緒に出勤なんかしたら、何言われるかわかんないんだからねっ!」
マスターと一緒にナナの目覚めを待っていたら、夜が明けてしまった。
目覚めたナナは、どうして起こしてくれなかったのだと一人で怒り、くだんの捨てぜりふを残してバーを出ていった。
僕もマスターも彼女の威勢のよさに圧倒されたまま彼女を見送り、顔を見合わせて笑った。
マスターがシャッターを下ろすのを手伝ってから、僕は一人電車の駅に向かった。
夜中に少しだけ降った雪が、道ばたに小さな山をつくっている。
人が往来するころには、すっかりとけて、雪が降ったことすら知らない人がたくさんできるだろう。
駅の冷たいベンチに座って1時間ばかり時間をつぶし本屋に行くと、ナナが誰もいない事務所でもう仕事を始めていた。
その日は、雪が残していった寒気に街中が凍るような寒さとなった。
寝不足の身体をひきずりながら仕事をすませ、アパートに帰った僕は、
白い息をはきながら、本棚の上から水色の箱をおろした。
ゆっくりと蓋をとり、不格好なクリスマスリースを見る。
たちまち彼女の息のぬくもりが、よみがえる。
リースを作る小さな手がすぐそこにあるような思いになる。
この部屋のどこかに彼女がいて、僕は彼女を見ながらゆっくりコーヒーを飲む。
ゆらめくストーブの明かりが、彼女の白いおでこを照らす・・・。
どんなに思い描いたところで、それが現実になるはずもないのに、思いは果てしなく広がる。

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