ところが・・・
僕のそんな気持ちなどおかまいなしのように、水色の箱は僕の生活の中に入り込み、僕のバランスを崩していった。
箱の中からは、いつもやわらかに何かが香る。それは、ドアを開けたとき、
誰か僕の帰りを待ってくれているような錯覚となる。
ベランダで暗い空を眺めているとき、部屋の中から漂う香りに、耳元で誰かの声が聞こえたような気がする
ラジオを聞いているとき、ふと身体の横に人のあたたかさを感じる。
朝飲んだコーヒーのカップが夕方そのままの場所にあることも、
暗いベランダに干されたTシャツが何日も風に吹かれていることも、
僕にとれば何でもないとことで、それが、一人でいることの空しさや侘びしさを突きつけたりはしなかった。
けれど、この何でもない不格好なリースから漂う香りは、静かに僕を追いつめる。
僕は、日に日に見えない彼女に強く心を奪われ、一人でいることの悲しみを募らせる。

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