| 1 僕は駅前のコンビニエンスストアをまわり、ブックコーナーの本を交換する仕事をしている。
コンビニで本を買うお客は、会社帰りのサラリーマンやOL、雑誌をめくる学生ばかりで、
じっくり本を選ぶ人などほとんどいない。
読み捨てたように散らかった雑誌を書棚に片づけ、新しい号の雑誌を置きながら、
僕は、早めにやってくる季節を知る。
電車から降りてくる人たちが額の汗を拭うころ、雑誌の表紙では、もうセーター姿の女の子が笑っていた。
その日も僕は、一足早くやってきたクリスマスを、赤や緑が踊る雑誌の表紙に感じながら、
コンビニの書棚に本を並べていた。
「クリスマスリースの本はないのかしら?」
ここの仕事が済めば、次の店に回る僕なのだ。僕に話しかけてくる客などめったにいない。
だから、頭の上で女の人が何か言っていることに気づいていたが、僕は仕事の手を止めなかった。
雑誌を棚に並べ終わり、立ち上がろうとする僕の後ろから「やっぱりないわねぇ」と、また声がして、
ふわっとあたたかい息が右耳にかかった。
僕はあわてて顔をあげた。
ワイングラスのように、弾くとピンッと音のしそうなおでこの女の人が、
長い髪を耳にかけながら小さく屈み込み、僕を見ていた。
首からはずして腕にかけている茶色のファーが、まるで子猫を抱えているように見える。
僕は、グラスのおでこを盗み見しながら、子猫のマフラーに目をやって、
「なにか、お探しですか」
と聞いた。
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